本の紹介


物理・数学編

この紹介では、有名な山崎さんの「本の紹介」、あるいは物理学会誌の書評欄などとの重複をあえて避けて、あまり紹介されない初・中級の教科書ばかり集めました。まだいくつか追加したいものはありますし、オーソドックスな本との連携も伝えたいとは思っています。

ところで、こういった本の紹介では大抵「実践的な本」が取り上げられ、悪い本面白い本は避けられているように思います。つまり理想化されたマニュアルになってしまっていると言ってもいいでしょう。悪い本の書評を系統的にやるのは誰だって面白くないし、人によって好みが分かれる本の評価は情報として価値が低くなってしまうからです。そういう情報は口伝えで伝わっているように思うので、やはり良質な人のネットワークは欠かせません。最近はかなりの情報をWebだけから引き出すことができますが、便利さに惑わされず、情報を平等に使いこなさないと料理のレシピを超えることは難しいでしょう。効率よく勉強して学問を味気なくしてしまうよりは、紆余曲折があったほうが楽しいですよね?

最後にちょっとレベルの高い要求をしてみます。学会誌の書評をいくつか読んでみると上手い書評、あるいは書評の技術というものがあることに気付きます。しかもどうやら専門書の分類学のようなものがある気がしてきます。つまり、過去に自分が読んだ本と比較・類型化する技術を身につけることができれば、本の選択に迷うこともなくなるのでしょう。要するにある種のコレクターってやつですね。個人的にはそういうのはあまり好きではないですが、何事も分類学から始まるので、案外大事かもしれません。


—統計物理—

西森秀稔『相転移・臨界現象の統計物理学』:ゼミで使うのによい本。内容は詰まっているので、読み終われば最低限の知識は身に付くようになっている。ネタ本はCardy[C]と言って間違いないと思うが、[C]は非常に読みにくいので、この本で基礎的なことを勉強してしまうのがよいと思う。同時に余力があれば、Goldenfeldから適当にトピックを選んで読むのもよい。この本の弱点はくりこみ(および場の理論)を避けている(ように見える)ところで、この本の後で永長さんの本などに進めば(物性での)実際的な知識が身に付くだろう。

田崎晴明『くりこみ群の方法』:特に田崎さんの書いた3〜4章を薦める。phi^4くりこみだが、4-3の最後にも書いているように、統計物理屋のくりこみに沿って書いてあり、(思想としては)場の理論屋の言うくりこみを特別な場合として含んでいる。(Wilson流の)くりこみの本質はphi^4で尽くされているので、ゲージ理論を知らなくても読めるし、読むべき本である。また、本格的に場の理論を勉強しながら、初心に帰るという意味で読むのもまた味わいがある。下で挙げた川合さんの講義もそんな感じだった。彼が若い頃(失礼!)のレビュー的な話で最近の講義ノートとは少し雰囲気が違うのだが、説明の明快さは神がかっている。

—量子力学—

上田正仁『現代量子物理学』:本当に初等的なところから書き始めているので、買うべきか迷ったが、その前半ですら記述の正確さと簡潔さには大変気を遣ってあるので新鮮だった。マニアックな干渉実験とかもあって、上田さんの特色が出ている。秀逸なのは6章で、日本語で読める現代的内容は貴重だ。ただ、さすがにページ数が足りないので、扱いが不十分な量子情報とかは別の本でやったほうがよいだろう。

—(有限)群論—

吉川圭二『群と表現』[Y]:前半が有限群、後半はLie群で、特に前半の完成度は高い。比較の対象としてはGeorgi[G]を挙げるのがよいだろう。有限群に関しては初版[G1]ではやってないに等しいし、ページを増した2版[G2]はゴタゴタと例を持ち出して、非常に読みにくい。比して[Y]ではC_3vにフォーカスしてありとあらゆる角度から分析してくれる。構成も練られていて読んでいて楽しかった。後半のLie群だが、SU(2)は流石によいのだが、SU(3)以上に関してはやはり[G]が充実している。[Y]はさっさと完成させて別の本に進むのがよいだろう。

—幾何—

シンガー・ソープ『トポロジーと幾何学入門』:ゲージ理論を勉強してから読むと物理的なイメージがあるので、読んでて楽しいと思う。微分幾何と位相幾何を結びつけるのが目的の一つらしいが、その目標が達成されているかどうかは疑問。内容的には和達さんの本とかぶるようだが、そっちは読んでないので知らない。

—微分方程式論—

高野恭一『常微分方程式』:これも初等的な教科書。説明するまでもないかもしれないが、微分方程式の概念自体は幾何でも代数(幾何)でも重要なので、題名に騙されてはいけない。よくある力学系の教科書とは対照的で、この本では複素関数論をもとに、一般的な事実から外れないように話が進む。読み終わった後で分野を超えた広がりを見せてくれる数学書は貴重だと思う。ちなみにこの本の後、私は大久保・河野の『漸近展開』に進んだのであった。

—番外編 (unpublished)—

川合さんの講義:「場の理論」という講義名にも関わらず、ゲージ場などには目もくれず、ネチネチとphi^4の繰り込み理論をいじり倒すという企画。とったノートを何度も何度も見直す度に、その深さに驚嘆する。しかも毎年違うネタらしいので(ちなみに昨年は格子ゲージ理論だったらしい)、出版しないのはあまりに贅沢な話だ。これも彼の美徳のひとつなのだろう。

川上さんの講義:現代的固体物理。磁性の起源くらいは知っておきたいものだが、意外と穴だと思う。最後の3回分しか聴いてないので、来年に期待・・・。


文学編?